2021.11.15 決算・節税対策
飲食店の法人化を検討する時期とポイント その2
飲食店の法人化を検討する時期とポイント その1前回の続きです。
今回は法人化にあたって検討する要素をいくつかご紹介します。
検討要素1 所得税と法人税の税率差
個人事業主に課税される所得税は累進課税制度を採用しています。
累進課税制度とは、所得と言われる儲けの金額が大きくなればなるほど、税率が上がっていく制度です。
具体的には、5%から始まり、10%、20%、23%、33%、40%、45%と段階的に上がっていきます。
より多く稼いでいる人は、より多くの税金を払わなければならない制度です。
一方、法人に課税される法人税の税率は累進課税制度ではなく、15%(所得800万円以下)と23.2%(所得800万円超)の2段階です。
(※中小法人の場合。平成31年4月1日以後に開始する事業年度から例外あり)
上記のふたつの税率差を考慮すると、
・個人事業主のまま所得税の税率33%で課税される
・法人化により法人税の15%と23.2%の税率で課税される
という状況があるのであれば、法人化をした方が得になるケースがあります。
逆のケースで言うと、
・個人事業主のまま所得税の税率10%で課税される
・法人化により法人税の15%の税率で課税される
という状況があるのであれば、法人化しない方が低い税率で課税されるケースも考えられます。
消費税は免税期間が長くなり得したけど、法人税は損をした、ということになってしまっては元も子もありません。
消費税のことだけをメリットとして考えてしまうと、このような落とし穴があるのです。
検討要素2 社会的信用とそれにまつわるコスト
法人化をすることで社会的信用が高くなります。
社会的信用とは、表現の難しい言葉なのですが、いわゆる
「きちんとしている組織」
になるイメージです。
では、この「きちんとしている組織」になることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
一番大きなメリットは、人材採用です。
人を採用しようとするとき、働こうと考える人は、
・きちんとした会社であるかどうか
・倒産せずにお給料をもらえるかどうか
・長く働ける会社であるかどうか
などをチェックします。
つまり、会社としての体裁が整っていることは、採用活動において強みになるのです。
一方で、法人の場合、社会保険(健康保険、厚生年金)への加入が強制となるので、会社の負担する人件費関連の費用は増えてしまいます。
強みとなる一方で、負担も増えるので、従業員とどのように付き合っていきたいかによって考え方が分かれるかもしれません。
店舗数を増やして、ある程度事業規模を広げていきたいという方は、法人化した方がメリットが大きいと言えます。
また、法人化により取引先からの信用も増す、といったメリットもありますが、飲食店の場合、一般消費者がお客様になるため、この点はあまり関係ないと言えます。
検討要素3 法人ならではの制度を活用するかどうか
法人化により、法人が活用できる制度や仕組みがいくつかありますので、そこを利用できるメリットがあります。
①決算期を自由に決められる
個人事業主は12月決算(1~12月)が強制ですが、法人の場合は、好きなタイミングを決算にできます。
年末の繁忙期の決算を避けられるメリットがあります。
②代表者の給与が経費に、なおかつ、給与所得控除を活用できる
個人事業主の場合、自分への給与は経費になりません。
(売上から各種経費を引いた残りが自分の取り分という考え方です)
一方、法人の場合、自分へ支払う給与を経費にすることができます。
なおかつ、自分が受け取った給与は、「給与所得控除」という有利な方法で税金の計算を受けることができます。
③退職金を経費にしながら積み立てることができる
法人の場合、経費にできる積み立て可能な方法があり、その方法を使って、節税をしながら退職金を積み立てるという方法がよく用いられます。
個人事業主の場合、自分への退職金は経費になりませんが、法人の場合、経費にすることができます。
④法人の方が経費になる余地が大きい
個人事業主の場合、生活と事業が一体のため、家事使用割合により、各種費用の一部を否認しなければならないことがあります。
一方、法人は個人と別人格で明確に区分されるので、経費の一部を否認するという考え方はとらないことが多いです。
⑤法人の方が将来のM&A時の税金が低くなる可能性がある
自分がリタイアして、お店の権利を売却しようと思った場合、個人事業だとその売却益は事業所得となるため、利益の金額が大きくなればなるほど税金が高くなります。
一方で法人の場合、M&Aを行う際には退職金の支給や株式譲渡の形式になるので、個人事業主に比べて税金の負担が軽くなるケースが多いです。
自分のお店を売却せずに子供に引き継ぐ場合でも、法人の方が株式の移転だけで済むケースが多いので、事業承継もスムーズにできます。
法人化によるデメリットもある
上記を検討するにあたって、法人化のデメリットも考慮しておく必要があります。
①管理費用がかかる
会社設立費用に始まり、役員の改選登記費用、法人住民税均等割(毎年7万円前後)の発生、税理士費用の上乗せ、銀行の手数料増加などなど、個人事業より管理費用が高くなります。
②厳格なお金の管理が求められる
個人事業主の場合、銀行口座やレジの中から自分の生活費を持ち出しても問題ありませんが(いくら持ち出したかは明確にする必要はあります)、法人の場合、給与として決められた金額以外のお金の持ち出しはしにくくなります。
他にもありますが、社会的信用が出る分、手間とお金がかかる、といったところがメインでしょうか。
長くなりましたが、以上のことを総合的に考慮して、法人化を検討します。
店舗や人を拡大する方向け、という書き方に見えるかもしれませんが、店舗や人を拡大していくつもりはない方でも、税率差や退職金の取扱いなどで法人化のメリットが大きくなる可能性はあります。
経営が安定して利益が結構出てきたし、今後のことも考えたいので、法人化を検討してみたいな、と思っている方はご相談ください。